Fragrance Lab. BLOG

フレグランス・ラボ通信

2021-06-29

#香りのエトセトラ

第4回|体臭と香水のマリアージュ!?|香りのエトセトラ

皆さん、こんにちは。

只今、梅雨真っ盛り。これから夏に向けて更にどんどん暑くなっていきますが、皆さん体調など崩されていませんか?こんな時期はジメッとした湿度と共に、身体の臭いも気になるところですね。

体臭が発生する仕組み・嗅覚順応とHLA・季節や気候による匂いの違いと香水の選び方とは?

フレグランスメーカーのアート・ラボがお届けする 【フレグランス・ラボ通信】第4回目は、体臭の仕組み、香りの選び方ついてお話をしたいと思います。

体臭が発生する仕組み

 実はヒトには元々、体の臭いはほとんどありません。
普段私たちが体温調節の為に出す「汗」や、新陳代謝によって生まれる「皮脂」。これらは発生時はほぼ無臭ですが、これを好む細菌やバクテリアが汗や皮脂を餌とし、その分解物として脂肪酸やたんぱく質やステロイドなどが発生します。これが「臭いの素」となり、体臭が発生する主な仕組みです。

 外国人観光客のツアー等に遭遇した際、いつもと異なる独特な臭いを感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。汗に起因する体臭の強さについては朝鮮人系・中国人系・日本人系・白人系・黒人系と、順を追うごとに強くなっていきます。汗を分泌する腺(汗腺)には「エクリン腺」と「アポクリン腺」の2種類があり、それぞれ汗の性質や汗を出す仕組みが異なります。汗に起因する体臭の原因は脇の下に多い「アポクリン腺」なのですが、元々、黒人系と白人系にはこのアポクリン腺が多く、東洋人には少ないと言われ、朝鮮人にはほとんどこのアポクリン腺が無くて体臭が極めて薄いそうです。

 この汗や皮脂に起因するもの以外にも、体臭を構成する内容は個々異なります。
それは、人種・食べ物の種類・季節や気候・生活様式・文化や職業などに至るまでの様々な生活条件や、健康かそれとも病気を患っているのか…更にその日の感情などによっても大きく左右されるといいます。

 職業による環境的な物に起因するものに関すると、例えば病院で働く医師や看護師さんは消毒液のフェノール臭、パン職人さんは香ばしい小麦の匂いがします。アロマディフューザーやエアーリフレッシャーなどの香り製品を扱う私たちアート・ラボでも、何かしら毎日香料にまみれているせいもあってか、外部のお客さまが会社やラボへ来られると「いい匂いがしますね!」と言っていただいたりします。

しかし、体臭や環境の香りというのは、当の本人にはあまり自覚がありません。
それは「嗅覚順応」と呼ばれるものです。

「嗅覚順応」と「HLA」

 例えば他の人の体臭はわかるけど自分の体臭はよくわからない…例えば他人の家に行くと必ずその家独特の匂いを感じるのに、いざ自宅に帰ってくると自分の家の匂いはあまり感じられない…という現象を、「嗅覚順応」と言います。それは外敵から身を守る動物的な本能で、いつもと異なる匂いを嗅ぎ取り危険を察知できる様、プログラムされているのだそうです。

 もう一つ忘れてはいけないのがHLAというヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen)で白血球をはじめとするあらゆる細胞の表面にある抗原(タンパク質)です。

 HLAは六つの遺伝子のセットからできているのですが、これは自分の身を病原体から守る為に自分と自分以外を見極める免疫システムの一環として存在しており、HLAのその型については自分とはなるべくかけ離れた型を持っている相手を選べばその子孫はより強固な免疫機能を手に入れることが出来るというものです。その為、自分とは遠いところにある型のHLAにより心惹かれ、いい匂いだと感じるようになっているということなのです。

これは遺伝子が支配する体臭の部分であって、人が一生持ち続けるその人固有の匂いであり、変わらない匂いです。

母親である知人の女性が言っていたのですが、お風呂上がりの子供の髪の毛を乾かしているときにその匂いを嗅ぐと一番喜びと母性を感じると・・。 私は、その理由は恐らく髪の毛の匂いのもとにその男の子が父親から受け継いだHLAの遺伝子が関わっているからなのではないかと推測します。

おそらくその男の子は父親のHLAの型をより強く受け継いだのではないでしょうか。これはあくまで推測の域を超えませんが・・。

子孫に免疫のバリエーションが増えるということは、バクテリアやウイルスや寄生虫などのパラサイト(寄生者)に対抗する為の手持ちカードが増えることになるので、自分より遠いところにある遺伝子に惹かれるという本能が前もって仕組まれているということです。

季節や気候による匂いの違いと香水の選び方

 匂いは特に雨の湿度の高い頃に影響を受けます。これは私たちも実感として認識していることですが、雨後の苔の湿り気のある香気や土埃(土ぼこり)の匂いなどです。
私はこれらの匂いの表現としてオークモスにベチバーなどを加味して表現していますが、湿度が高いと匂いもより強く感じられるのは、水分を含むと香気成分を追い出す働きがあるからだと言われています。

 パリで「いい匂い!」と喜んで選んだ香水を日本に持ち帰ってみたら、あの時の匂いにならなかった…という事があります。香りは土地の風土や気候・湿度に影響を受けるからです。日本はフランスより湿度が高いので香水のニュアンスも少し重たく感じてしまうのです。これが香港のように日本より湿度の高い地域(3月、4月には湿度は90%ほどにもなる)だと、なおさらのことルームフレグランスも香水も慎重に選ぶ必要があるといえます。

ここまでは体臭についてのお話をしてきましたが、人それぞれに特有の匂いがあるその理由をお判りいただけたと思います。

では、自分特有の体臭にどのようにして香水を合わせたらいいのか?という大きな課題について少しお話ししたいと思います。

体臭が弱ければ香水の選択肢が増える

 これはあくまで個人的な観点でのお話になりますが、日本人の特性としてまず欧米人にくらべてもともと体臭は弱く、生活習慣においても入浴を欠かさないなど普段から清潔にすることが習慣化されています。

ですので、香水をつけるにもベースの体臭が弱いということは香水の選択肢が増えるということになるので、比較的各自の好みでつければいいと言えるのではないかと思います。

私達の先祖は農耕民族であることから米や野菜を主食としている為強い匂いにはなじみがありません。 また、中世ヨーロッパに代表されるような体臭をごまかす為のマスキングの需要も歴史的にはあまりなかったということもある為、より爽やかで軽い香りの方がなじみやすいと言えると思います。

実際に私の経験から言えば、日本人には優しめのフローラルに柑橘系のトップが加わったものや、ハーブ系などのグリーンノートが人気でした。

 これが、白人や黒人である西洋人となると話は違ってきます。 そもそも体臭が強い為、柑橘系やグリーンノートだけでは負けてしまいます。 より重たい香りであるウッディーにアンバーグリスやムスクが効いた香調でないと体臭をカバーしたり、体臭に溶け込むようにしたりして一体化させることが出来ないという状況が起きてしまいます。

しかしながら、近年ではグローバル化が加速して私たち日本人の食生活も欧米化、あるいは多様化してきています。 肉食中心の食事やバターやチーズなど乳製品の消費も増えており、食物から受ける影響も無視できなくなっています。当然、その結果として私たちの体臭にも変化が起こっていることは否めないと思います。

フェロモンの観点からの香水

 また、フェロモンの観点からいえば、男性ではアンドロステノール(麝香臭とかムスク臭といわれる)が有名で女性にとっては男らしさを感じて好まれる香気成分ですが、合成ムスクはいまやありとあらゆるところで使われているように、本能を刺激する成分には人を引き付ける力があります。

ですのでもともとあるムスク臭を含む体臭にうまくマッチングできるような香調を目指すということに尽きるのかと思います。さらに人肌から発する人特有の匂いはムスク臭に白檀のような香気成分が感じられます。

少しぬくもりのあるパウダリックな香調ですので日本人でもこのようにアニマル臭も少し取り入れながら自分独自のパフューム感を鍛えてみてはいかがでしょうか?

 実際に欧米における名香と呼ばれる香水の中には、欧米人の体臭に合わせたものが多いと思います。その多くは、アニマル系とレジノイド系(樹木から抽出される樹脂の香料でバルサミックとかバニリックと表現される)がベースノートに一体となっている構成が多いと思いますが、体臭が強くて重たくしかも少し甘ったるさも持っているので、このような組み合わせのものが多くなっているのではないかと想像できます。

最後に

香水もファッションの一部と言われています。
かのシャネルの香水の生みの親であるガブリエル・ココ・シャネルは、


「オートクチュールはパフュームで完成される」


と、いう言葉を残しています。

体臭や環境臭は自分では中々わかりにくいもの。香りの選び方も周りの人の意見も聞きながら試してみるのも一つの方法です。
ルームフレグランスも香水も、自分好みの香りが見つかるまでの過程はとても楽しいプロセスのひとつです。

ではまた次回 【フレグランス・ラボ通信】〜香りのエトセトラ〜でお逢いしましょう。